菊之介の霊~死んだはずの役者が梅玉一座を支えた差し入れの蕎麦~

大衆演劇明治時代に人気を集めた、大衆演劇の芝居。

旅役者の一座が、全国を巡業して提供する娯楽の一つでした。

旅から旅へ、苦楽を共にする役者の一団は、互いの絆が非常に強かったと言われています。

霊の姿となっても絆を忘れなかった、梅玉一座の菊之介のエピソードです。

 

不景気にあえぐ梅玉一座

芝居小屋テレビが登場する以前の時代であった、明治28年。

旅役者の一団「梅玉一座」は、いつものように全国を巡りながら芝居公演を行っていました。

当時は、娯楽が少なかったこともあり、芝居見物は人気の的でした。

しかし、どんなに人気といっても役者稼業は浮き沈みの激しい業界。

競争相手も多く、地域によっては全くウケない演目などもありました。

さらに、運の悪いことに、その年は不景気。

各地での公演で、空席が目立つようになっていました。

梅玉一座が福岡で公演を行なうころには、先行きを心配する空気が、役者の間に流れるほどでした。

客足の少ない福岡公演を終え、明日には次の興行地である、佐賀市へと出発しようという日のことです。

役者見習いの菊之介が、とつぜん胸の痛みを訴え、倒れてしまいました。

共に旅をしてきた菊之助の容態を心配するも、次の興行日に遅れることはできない梅玉一座。

菊之介を連れて移動することも難しかったため、後ろ髪をひかれる思いで、福岡の興行主の元へと預けることにしました。

そして、迎えた佐賀市の公演初日。

客足の悪さは、福岡以上でした。

いつもであれば大勢の見物客で賑わう客席も、大半が空席という状態で頭を抱えることに。

公演初日のお約束である、縁起物の蕎麦でさえ、ごひいきさんの誰一人からも届かないという有様でした。

 

届けられた蕎麦

ガラガラの客席に、届かない蕎麦。

一座の者は、「とうとう、こんな状態にまでなってしまったのか・・・」と打ちひしがれました。

興行の旅の中で、じわりと感じていた不安が、はっきりとした形で現れたのです。

「ごひいきさんにまで見限られてしまっては、もうダメかもしれない。」

厳しい現状を前に、誰もが沈み込んでしまった、そんな時。

蕎麦「まいどぉ!蕎麦の差し入れです!」

芝居小屋の暗い空気を吹き払うような、明るい声が響き渡りました。

扉をガラリと開けて入ってきたのは、佐賀市での公演でいつも蕎麦を届けてくれる、坂口屋の小僧でした。

いつものように差し入れられた蕎麦に、一座の顔が緩みます。

「ああ、見捨てられていたわけじゃなかったんだ。」

ほっとした心持ちで、蕎麦を食べ始める一座。

役者の一人が、ふと入り口に気配を感じて振り返ると、福岡に残してきたはずの菊之助の姿がありました。

「おお!菊之介じゃないか!元気になったんだな!」

役者仲間は、菊之介の姿に安心して、喜びながら差し入れの蕎麦を勧めます。

しかし、菊之介は、一向に箸をつけようとしません。

そして、「皆さんにはいつもお世話になって、お礼の言葉もありません。せめて何か恩返しを・・と思ったのですが、これといって出来ることもなく、せめていつもの縁起物の蕎麦でも食べてもらおうかと思いまして・・・」

そう言い残して、ふっとどこかへ行ってしまいました。

奇妙なできごとに、みなが首をかしげていると、座長がやって来ました。

菊之助が佐賀市までやって来た話をすると、座長は、神妙な顔つきになって、あることを打ち明けました。

「実はなぁ・・菊之介がここにいるわけがないんだ。今朝、福岡からの電報で、あいつが心臓麻痺で亡くなったと知らせがあった・・・動揺させてはいけないと思ってみんなには話さなかったんだが・・・」

座長の信じられない言葉に、一座の誰もが驚いていると、また人がやって来ました。

福岡の興行主のところの使用人が、菊之介の遺骨をはるばる運んできてくれたのです。

手には、白い布に包まれた、骨壷がありました。

「もしかして、さっきの菊之助は幽霊だったのか?」

菊之介は霊となって、使用人と共に佐賀市までたどり着いたのかもしれません。

 

蕎麦を注文したのは

幽霊不思議な出来事を体験しながらも、初日の公演を無事に果たした梅玉一座は、すぐに蕎麦屋のもとへ出向き、小僧に話を聞きました。

すると、蕎麦の注文をしてくれたのは、いつものごひいきさんではなかったと言うのです。

「あの方は、この不景気で夜逃げをなさって・・・今日注文に来られたのは、子どもっぽい感じの若い男の人でしたよ。」

詳しい特徴を聞いてみても、やはり菊之介に間違いないようです。

驚くことに、蕎麦の料金までもしっかりと支払った後でした。

「お金をほとんど持っていなかったはずなのに、菊之介がこんなことをしてくれるなんて・・・」

梅玉一座のみなは、芝居を一生懸命することが菊之介の供養になると考え、翌日からの興行に励むことにしました。

すると、不思議なことに、徐々に客足が増え、以前のような大盛況となりました。

「ひょっとしたら、菊之介が客引きでもやってくれてるのかな。」

一座の者は、そう考えながら、菊之介の遺骨に線香をあげるのでした。

 

菊之介の霊~死んだはずの役者が梅玉一座を支えた差し入れの蕎麦~ まとめ

ソバ大衆演劇の芝居は、現在でも数多くの劇団が公演を行っています。

強い絆で結ばれた一座の芝居を見物に行けば、片隅でそっと見守る心優しい菊之介の霊を見かけることがあるかもしれません。

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あかん店長

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