狸憑き|死者に憑く老狸の霊と殺人事件

狐憑きに続いて狸憑きです。
前回の記事では、狐憑きについてお話しましたね。

狸は狐に比べて劣っているという評価を受けていますが、狸憑きという怪異現象の伝説も狐憑きどうように残されています。
特に四国や佐渡ヶ島、青森県には多く見られる伝説で、人里離れた村で起こる怪現象だったのでしょう。

 

狸は死者に憑くのか?

狸幕末に発行された書物『視聴草』には、狸憑きについての記述があります。
江戸末期頃、やちという老婆がある屋敷に仕えていました。
やちは屋敷の姫をたいそう可愛がって面倒を見ていました。

ところが、やちは突然倒れ、気絶してしまったのです。
原因は不明でしたが、しばらくすると意識は回復し、体は不自由なれど少し歩けるようになりました。

しかし、やちの様子がなにやらおかしいのです。
多くの体毛が生え、着物にも付着するほどでした。
また、読み書きができなかったやちが和歌を詠むようになったり、布団には多くの狸の毛、そしてなによりも食欲が10倍にもなったのです。
やちの食欲は次第に増し、1回の食事に7膳から9膳という大量の飯をペロッと平らげ、食後には団子やきんつばを数十個平らげるようになったのです。
こんなに食べては肥るかと思いきや、それが痩せていく一方で、不審に思った屋敷の主は医者に診せることにしました。

医者が診ると、なんとやちの体には脈がありません。
これはまさしく奇病と言うしかありません。

これは気絶したときに、実はやちは死んでいたと考えられています。
死んだやちに狸が取り憑き、体を操っていたのです。

そうした冬のある日、やちの部屋に阿弥陀三尊の姿が現れたといいます。
阿弥陀三尊が、やちを浄土へと連れて行く時、やちの体から老いた狸が抜け出していくのが見えたといいます。
狸がやちの体から抜け出した瞬間、やちの体は遺骸となっていたというお話です。

この話では、狸は死者に憑くと考えられます。
また逆に、気絶した時、死んだのではなかったとしたら、意識がない時に狸が憑き、狸に憑かれるたことで、やちが死んだとも考えられます。

 

狸憑きの特徴

狸憑きは狐憑きと同様に奇行が目立つようになります。
急に怒り出したり、暴力を奮ったり、性欲が増したりと野性的になるとでもいうのでしょうか。

また、狸憑きの特徴としては「菜食」になるということです。
菜食といっても、慎ましいものではなく、とんでもなく大食い。
大食いなのに痩せていくというのが特徴ではないでしょうか。
これにより、だんだん衰弱していきます。

さらに、腐ったものまで食べてしまいます。
狸は雑食性と聞きますが、こういった腐敗したものを食らう行動も狸憑きの特徴です。

 

東京浅草寺の鎮護堂

浅草寺鎮護堂
浅草寺鎮護堂
画像出典:https://ameblo.jp/furaaki/entry-12435166633.html

東京の浅草寺には鎮護堂があり、その傍らには狸の像があります。

明治時代の都市開拓で住む場所を奪われた狸は、人間に暴行を働くようになったというのです。
狸の暴行は、次第に拡大していき、ついには寺の娘に取り憑いたといいます。

狸に取り憑かれた娘は「私は浅草のおタヌキさんだよ」と口走るようになったといいます。
そうしたある日、寺の大僧正・唯我韶舜らが狸からお告げを聞きます。
狸が言うには「自分たちを祀れば寺の守護になる」と告げたといいます。
そうして、狸を狸神として鎮護堂に祀られたという伝説です。

ここでも狸憑きは暴行を犯しています。
狐憑きに比べると狸憑きは女性に暴行を働くというような、比較的下品な内容です。
人間を相手に暴れるといった感じでしょうか。

 

狸憑き殺人事件

昭和54年には狸憑きを原因とした殺人事件が起こりました。

場所は熊本県芦北郡芦北町、20代の男性が高熱を出し、その後意味不明な言葉を口走ったり、奇行が目立つようになりました。
奇行は次第に暴力的になっていき、これを理由に男性は職場を退職します。
仕事を辞めた男性は、自宅で療養に入りますが、医者に診てもらっても一向に良くなりません。
男性の母親が祈祷師に診てもらったところ「タヌキが憑いている」と告げられました。

この祈祷師は憑き物に関する知識は不十分で「狸落とし」をする能力はなく、処置は行いませんでした。
しかし、狸憑きを信じた家族は、どこかで憑き物落としの方法を聞きます。
素人が聞きかじった方法は「叩き出す」というごく単純なものでした。

ある日、家族は男性に憑いている狸を追い出すため、狸落としを行います。
弟が男性を取り押さえ、父と姉が叩き出します。
これが3時間にもわたって行われました。

男性は父と姉に3時間もの間、殴られ続けた挙げ句、死亡したのです。
この後、一家4人は傷害致死容疑で緊急逮捕され、世間に露見しました。

 

狸憑き|死者に憑く老狸の霊と殺人事件 まとめ

狸憑きの特徴というのは狸そのものです。
まるで狸がのり移ったかのような奇行を働くようです。

ただし、決して素人が憑き物祓いをしてはいけません。
熊本県芦北郡芦北町の狸憑き殺人事件では、祈祷師が未熟だったため、そもそも狸憑きだったのかさえ、疑問が残ります。

叩けば出ていくなんてことが無いことくらいみなさんもわかりますよね。

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