呪術師

誰でも一度は「あんな人、死んでしまえばいい」と思ったことはありませんか?

人の道にはずれた良くない思いとはわかっていても、その暗黒の願いを叶えてくれる者=呪術師がいたら、その手を拒否できる人間は果たしてどれくらいいるのでしょう。

ここで紹介するのは、そんな呪術師として近年まで活動していた一人の女性の話です。

 

女呪術師 ウラ・フォン・ベルヌス

呪術師自ら「悪魔の女司祭」と名乗ったウラ・フォン・ベルヌス。

彼女はロウ人形や泥人形などに針を刺して呪いをかける術を得意にしていましたが、この他にも13種類の呪術を使い分けていました。

ウラ・フォン・ベルヌスは客からの依頼があると、それぞれの料金表を提示し、客自身に呪術の種類を選ばせて、呪いの依頼を受けていたというのです。

その依頼人には政治家や芸術家などの有名人たちも多く、彼女が呪い殺した相手は20人以上にのぼると言われています。

ただし、これは死亡人数に限ってのことで、病気や事故、怪我など相手の命を害していない呪いの数までは定かではありません。

報酬は一人当たり日本円にすると100万円程で安い金額とは思えませんが、人気があり、依頼も多く、何ヶ月先までも呪いの予約が入っているといいます。

ウラ・フォン・ベルヌスに呪いをかけられた人間は転落したり、交通事故を起こしたり、心臓マヒを起こしたり、熱病にかかったなどの理由で亡くなるというのです。

※写真はイメージです。ウラ本人ではありません。

 

人形臓針の呪殺法

呪殺法ウラ・フォン・ベルヌスの呪いには色々な種類がありますが、一番得意なのは人形を使ったものであり、呼び名からして恐ろしい「人形臓針の呪殺法」というものです。

使用する人形にもロウ人形、木製人形、布人形、死皮人形等の種類があるといいます。

名前もおどろおどろしい死皮人形とは、「屍肉を喰らうと言われるカラスやハゲタカの内臓」と「死刑になった罪人のツメ」と「墓場の土」というおぞましい3つを混ぜて作ったもので、仕上げに罪人の死体から切り取った皮膚にくるんで乾燥させて完成となります。

ちなみに、この人形の頭部には、動物の頭蓋骨を使うという念の入れようです。

この人形の使用時には、まずはサタンを呼び出す呪文を唱え、依頼された殺す相手の写真に魔剣を突き立てます。

そしてウラ・フォン・ベルヌスは自分の指に針を刺して血を流し、その血で死皮人形の心臓の位置に×印を描くと、「この者に悪魔の呪いがかかれ! 呪いが届いて地獄へ落ちろ!」と叫びながら、×印の位置=心臓の位置に針を突き刺すというものです。

 

魔女パンフレット

呪い死皮人形を使って実際に夫を殺してもらったシモーヌという女性がウラ・フォン・ベルヌスについて語った証言があります。

ウラ・フォン・ベルヌスの店に入ると全て真っ黒に統一された部屋に通されます。

中央に赤い布がかけられたテーブルが置いてあり、その上の金色の燭台には赤い8本のロウソクが立てられ、火が灯されているといいます。

真っ暗な部屋に炎がゆらめき、部屋に入った人は、いやがおうにも神秘的で恐ろしい雰囲気をかき立てられるのです。

待っているとしばらくしてドアが開き、黒い衣装を着たウラ・フォン・ベルヌス本人が現れたといいます。

ウラは重々しく口を開きます。

「本日のご用件は?」

彼女は、「魔女パンフレット」という小冊子を作っていて、そこには呪いの種類や料金などが書かれてあったというのです。

まるで美容室の施術メニューのようですね。

彼女の黒魔術には13種類ほどありましたが、シモーヌは一番強力な呪いを依頼しました。

シモーヌは夫の暴力に耐えかねていたので、一刻一秒でも早くさっさと夫を殺してもらいたかったのです。

シモーヌの希望どおり、ウラ・フォン・ベルヌスは最強の効力がある死皮人形の呪いを一週間続けて行うという契約を結びました。

早速、シモーヌは殺して欲しい夫の写真を渡し、料金1万マルクを支払ってウラの館をあとにしました。

すると、ウラ・フォン・ベルヌスが呪いを始めた翌日から早速その効果が現れたのか、シモーヌの夫は心臓がキリキリと痛むような症状を訴え始めたというのです。

その症状が数日間続いたあと、8日目の朝、とうとうシモーヌの夫は血を吐いて死んでしまったのです。

希望が叶い、邪魔な夫が死んだシモーヌは大喜びだったことでしょう。

突然死だったので、夫の遺体は一応解剖されたのですが、特に不審な点は発見されず、心臓マヒによる死と診断されたといいます。

呪いによって相手を殺したとしても、実際の証拠もないので殺人とは立証されませんでした。

そのため、シモーヌもウラも逮捕されることはありませんでした。

 

呪殺法の失敗

呪いの失敗1982年12月17日、西ドイツ(当時)南部バイエルン州のランツベルクという町で、事件は起こりました。

殺人未遂容疑で1組の男女が逮捕されたのです。

首謀者はハンネローレ・エップ(37)という人妻であり、殺されそうになったのは、その夫であり、材木会社の社長でもあるハインリッヒでした。

ハンネローレは、H・ムンド(42)という室内装飾家と浮気をしていましたが、ムンドとの不倫に夢中になるうちに夫が邪魔になってきたので、愛人と共謀して、夫ハインリッヒの殺害計画を立てたのが事件の始まりでした。

最初は麻酔液をかがせ、意識を失わせた夫を車の運転席に乗せ、車ごと池に落とす計画でした。

転落事故と見せかけるつもりだったのです。

しかしハインリッヒは落ちる寸前で目を覚まし、ブレーキを踏んで間一髪助かったのです。

ハインリッヒはすぐ警察に通報し、そして妻ハンネローレと愛人H・ムンドは逮捕されることになりました。

逮捕された二人の供述によると、

「自分たちはある呪術師にハインリッヒを呪い殺してくれるよう、大金を払って頼んだ。なのに、さっぱり効き目が無く、夫は死ぬ気配がない。もう、これ以上待てない。仕方ないから、いっそ自分たちで殺そうとしたのだ」

と言っていたそうです。

その上に「その呪術師がハインリッヒを呪い殺してくれていたなら、自分たちが実際に手を下そうとはしなかったのに。大金を払ったのに、失敗だった」とも主張していたというのです。

警察側は「この科学の現代において呪いで人を殺すなんてありえないだろう」と2人の主張を相手にしなかったが、あまりにしつこく言い張るので、頼んだという呪術師を参考人として呼び出すことにしました。

警察に呼ばれてやって来たのは、小柄で、どこにでもいるようなごく平凡な印象の中年女性でした。

それが、当時56歳のウラ・フォン・ベルヌスだったのです。

ウラ・フォン・ベルヌスは、

「私は女呪術師。正真正銘の魔女です。今までに20人以上は呪い殺しています」

と冷静に語り、「悪魔の女司祭」と自己紹介したといいます。

勿論、ハンネローレ達の殺人未遂事件についてウラ・フォン・ベルヌスが罪を問われることはありませんでした。

しかし、逆に言えば、ハンネローレから依頼されたウラの呪いは効力が無く、失敗に終わったとも言えます。

表に出ることが許されないのが呪術師の宿命です。

ウラ・フォン・ベルヌスは裏の社会では大人気の有名な呪術師でした。

彼女が表の世界である警察に呼び出されたのは仕事の成功=殺人の成功ではなく、「失敗」が理由だったというのは、何とも皮肉な結果ではないでしょうか。

呪術というものは、漫画やドラマのようにいつも100%成功とは限らないということなのでしょう。

 

呪術師ウラ・フォン・ベルヌス~呪いで殺しても逮捕されないのか?~ まとめ

ウラ・フォン・ベルヌスが呪殺した(と主張する)のは数百年前の史実ではなく、ごく近年のことです。

憎い相手を排除したい、害したいと願う人間は絶えることはなく、表に姿を見せないだけで、呪術師は今もこの社会の陰に生き続けているのかも知れません。

 

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