丑の刻参り

ワラ人形・日本古来の白装束・五徳(ごとく)・一本刃の下駄・ワラ人形・菅人形で使われる呪い文・呪いに使われる人形の一種・紙人形…

これらは日本に昔から伝わる「呪い」に関する道具です。

この記事では、ホラー小説などによく取り上げられる丑の刻参りとワラ人形について紹介したいと思います。

 

丑の刻参り(うしのこくまいり)

丑の刻参り「丑の時参り = うしのときまいり」とも言います。

殺したいほど憎い相手がいる場合に、自分の手を汚さずに相手を死に追いやってしまう「呪い」の方法の一つが、昔から伝わっている「丑の刻参り」です。

丑の刻とは、昔の時間の単位で、現代では深夜1時から3時に当たります。

「草木も眠る丑三つ時」と言われますが、文字どおり人間はもちろん、草木さえ寝入っているだろう真夜中の静かな時間。

この時間にたった一人で神社にお参りするので丑の刻参りと呼ばれています。

暗闇の神社で、憎い相手をワラ人形に見たてて、杉の木に押しつけながらクギを打ち込み、呪いをかけていくという呪術の一種です。

また、その呪いに使われるワラ人形が一般的に「呪いのワラ人形」と呼ばれるものです。

人形を使った呪術はなんと3世紀頃の古墳時代からあったそうですが、クギを使って呪うという風習はなかったようです。

その後の奈良時代(710-794年)の遺跡から、胸にクギを刺された人形が発見されています。

政敵を葬るために、相手の名前を書いた木片を土に埋めて汚物をかけたりして呪詛する行為が行われるようになった時代、この時代あたりからクギを打って呪う習慣が始まったと推測されています。

クギを刺された人形が他の遺跡からも発見されています。

丑の刻参りについては、鎌倉時代(1185年頃-1333年)後期の書物にも見受けられ、こちらも古い歴史を持っていますが、現代に伝えられている方法が完成したのは江戸時代ということです。

丑の刻参りが行われた神社としては、京都の貴船神社や岡山県の育霊神社などが有名です。

この他にも境内の杉にクギ穴が見つかる神社などもテレビ番組で放映されることがありますね。

 

丑の刻参りの道具と方法

丑の刻参りの道具日本古来の正式な方法で丑の刻参りをしたいと思えば、たくさんの道具を用意する必要があります。

まず上下とも白装束を着こみます。

頭には五徳を逆さまにしてかぶります。

五徳とは、火鉢の中や炭火などの上に立てて、その上にヤカンなどを乗せ、お湯を沸かしたり調理などに使用していた道具で、3脚のものと4脚のものの2種類があります。

一般的には鉄製や陶製のものです。

ここでは3脚の五徳を使います。

この脚の部分にロウソクを3本立てて火をつけます。

これが闇夜を照らす灯(あか)りになります。

この火が消えないように気をつけなければならないとも言われています。

足には一本刃の下駄を履き(歩きにくそうです)腰に守り刀をさして、右手にカナヅチ、左手にワラ人形を持ちます。

ワラ人形の腹の部分に前もって呪い文を入れておきます。

呪い文は図のような様式で、殺したい相手の名前と年齢を書きますが、腹に入れるものは相手の髪の毛やツメなど、身体の一部でもよいそうですが、手に入れるのが難しそうですね。

丑の刻である深夜1時から3時ごろに神社にお参りして、呪い殺したい相手の名前を大声で叫びながら境内の杉の木に五寸クギでワラ人形を打ちつけます。

このとき、誰にも姿を見られない場所を選ぶことが大切です。

なおかつ誰にも見られないまま七晩続けなければなりません。

七晩何事もなく無事に祈念が終了したら、ワラ人形を杉の木からはずします。

トゲのある木の枝で火をおこし、その炎でワラ人形を焼きます。

その際には、灰が風に吹かれて飛ばないように充分注意しましょう。

ワラ人形の灰は容器に入れます。

その容器を持って十字路になっている道路へ行き、その場に灰をまきます。

全部一気に、捨てるように容器を逆さまにして空けるのではなく、一回一回灰を手でつかんで丁寧にまくようにします。

以上が全工程ですが、ワラ人形を打ちつけているとき、その姿を人に見られてしまうとその瞬間、呪いは失敗すると言われています。

恐ろしい掟ですが、もし見られたら、その目撃者を殺さなければならないとも言われているそうです。

本格的な古い方法に従って行おうとすれば、道具の用意だけでも相当な手間と時間がかかりますが、何より肝心なのは精神力でしょう。

呪いとは一種の超能力のようなもので、相手に対する激しい憎しみがあれば、正式な装束や道具を揃えなくても十分に効果があるとも言われているのです。

また現代風に人形の代わりに相手の写真を使っても効き目があるとも言われています。

 

その他の人形を使った呪い

ワラ人形呪いのための人形ですが、材料はワラだけではなかったようです。

呪いの方法についても、丑の刻参りだけが唯一だったとわけではないようです。

人形の材料については、紙や泥、菅(すげ)なども使われていました。

代表的なものが菅人形です。

菅とは、時代劇にもよく登場する「菅笠(すげがさ)」に使っていた植物で、現在でもネット上で菅笠を販売している会社もあるそうです。

菅人形は、ワラ人形とほとんど同じ形で、違いは材料がワラか菅だけです。

同じ植物なので、材質も似ていますし、一見すると同じものに見えるかも知れません。

ワラ人形と同じく、この菅人形の中にも呪い文を入れますが、ワラ人形に入れるものと全く同じように相手の名前と年齢を書いておきます。

使い方が違うのはここからです。

呪い文を菅人形の身体に入れた後に、クギを使うのではなく、呪いの言葉を唱えます。

「おんをり きりていめい りていめいわや しまれい ソワカ」

と、憎しみをこめて21回も繰り返すのです。

その後、菅人形の一部を切断したり、メッタ切りにしたり、燃やしたり、埋めたりします。

殺したい場合には、お宮や墓場に埋めるようにと伝えられているそうです。

 

呪い返し

型代身に覚えのない、言いがかりのような呪いをかけられた場合には「呪い返し」を行いましょう。

相手の呪いをそのまま相手にそっくり返してしまえると言われる方法です。

紙を切って、一番下の図のような型代(かたしろ)を作ります。

それを二つ折りにして、頭に当たる部分はV字に切って起こして相手の頭に見立てます。

表側には図の右のような秘符(ひふ)を書き、裏には自分の年と性別を書きます。

そして

「オンバジラギニ ハラジハタヤ ソワカ」

と100回唱えてから、この型代を別の紙に包んで完全に封印します。

そして今年の吉(きち)の方角に当たる川か海に流してしまいます。

流したら、気になっても、後ろを振り返らずに帰りましょう。

これで呪い返しは終了です。

 

呪いのワラ人形の効果は?

呪いのワラ人形ワラ人形の呪いは、相当古い時代から伝わっていますので、日本でも歴史的に見るとかなりの人数が丑の刻参りを実際に行っていると思われます。

本当の呪術師や、呪術の研究をしている人は別として、一般の素人が初めて行った場合には、果たして呪いの効果は本当にあるのでしょうか。

これに関しては、「丑の刻参りを行った人100人を対象にしたアンケート」とか「丑の刻参りにおける相手の致死率調査」とか、そんなとんでもない調査をするはずもなく、もちろん統計もないので、はっきり言って全然分からない状況です。

そもそもこんな調査をする機関もありそうにないですよね。

前述しましたが、呪いとは精神の力であり、超能力の分野に属すると言われます。

実際、深夜にたった一人で7日間、天気が悪くても1日も休まず神社に通ってこの儀式を行うということは、相当な精神力を必要とすることでしょう。

普通であれば真夜中の神社というだけで怖いし、一人で大声を出すのも恥ずかしいし、自分の声が闇に溶けていくのも恐ろしいと思うことでしょう。

しかし、そうしたためらいをものともせず、この儀式をやり遂げたということは、そこには凄まじいまでの怨念や、気が狂いそうなほどの憎しみ、そして狂気の精神集中があったという証明でもあるのです。

超能力者と呼ばれる人たちはこの世に実在しています。

何の能力もないような素人でもそういう要素を少しでも持っている人間が呪いを行った場合、相手に何らかの影響は及ぼしている可能性があるのではないでしょうか?

例えば、相手の足を念力で動かして高所から転落させた、身体の内部に悪影響を与えて病気にした、判断力を鈍らせて交通事故を起こさせた…

などの被害を与えた場合があっても不思議ではないと思うのです。

呪術を行う場合、最も重要なことは衣装や道具よりも儀式を行う者の精神、すなわち強い憎しみと言われています。

実際には丑の刻参りで呪っても何も起こらなかった方が圧倒的に多いと思いますが、中には本当に相手に不幸を招いたり、死に至らしめた場合もあるということで、一概に迷信として片付けることも出来ないのです。

要するに呪いをかけようとする者に、超能力者としての素質がほんのわずかでもあるか無いかで呪いの成功と失敗が決まると言えましょう。

ブードゥー教呪いで有名な宗教といえば、カリブ海の島国やアメリカ南部などで信仰されているブードゥ教です。

このブードゥ教にも、人形に針を刺して呪う方法があり、呪いの対象になってしまった南米在住の女性が、腕に痛みを感じるので病院に行きレントゲンを撮ったら、腕の中にクギのような太い針が何本も入っていたという恐ろしい事例もあるのです。

このクギがどうやって体内に入ったのか、それを考えるとゾッとしますね。

実際に身体の中に出現した針を取り出す手術をした人は何百人にものぼると言われており、世界的に見ても呪い自体は決して非現実的なものではないのです。

 

丑の刻参り~呪殺法から身を守る「呪い返し」とワラ人形の効果~ まとめ

憎い相手を排除するため、真夜中の神社へ通い、ワラ人形を打つ呪いは時代劇やホラードラマではよく取り上げられる題材です。

その精神力はある意味尊敬に値する強さだと思いますが、自分の心を闇に落とすような呪いではなく、他のやり方で憎しみを消化できれば良いのにと思ってしまいます。

しかし、効果が無いとしても、この憎しみを何とかしたい-と切望する人は「ワラ人形」を作ろうとするのでしょう。

自分が知らないうちに呪いを向けられる対象になっていたら…

日々、誠実に過ごさなくてはと思うのです。

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