犬神家の一族【横溝正史】における遺言状の効力

犬神家の一族ポスター犬神家の一族は、横溝正史によるミステリー小説です。
市川崑監督がメガホンを握り、昭和51年に公開された映画『犬神家の一族』は「日本映画の金字塔」とまで称されるほどの大ブームになりました。

犬神家の一族の舞台は信州の那須という町、これは架空の町とされています。
世に大ブームを起こした「水面から両足が出ている死体」のポスターのロケ地は青木湖だそうです。
このポーズを当時の若者や子供たちがまねて、プールや銭湯で犬神家ポーズをするので、「犬神家禁止」という張り紙まであったといいます。
また、マスクをかぶったスケキヨは私たちの心に得体のしれぬ恐怖を植え付けました。

犬神家の一族を語るに欠かせないスケキヨ役は、あおい輝彦。
2006年版では尾上菊之助が演じています。
テレビシリーズでは、田村亮、石黒賢、椎名桔平、西島秀俊、賀来賢人と時代により移り変わり、毎回誰がスケキヨ役を演じるのかが注目されるのも犬神家の一族ならではと言えるでしょう。

 

遺産相続の争いの発端

犬神家毎回、田舎町の風習を題材にした連続殺人ミステリーという横溝正史ワールドですが、犬神家の一族の焦点となったのは遺産相続問題です。
事の発端は莫大な財産を築き上げた犬神佐兵衛を親せき一同で看取るシーンから始まります。

親せきと言っても犬神佐兵衛は生涯正妻を持たず、それぞれ母親の違う3人の娘が一番近い存在となり、当然3人の娘が相続するのかと思いきや、ここで遺言状が登場します。
しかし、遺言状は弁護士に託され、犬神佐兵衛の言いつけにより、佐兵衛に縁の深い9人のうち1人でも欠けていると遺言状の内容は明かせないこととなっていました。

縁の深い9人とは

  • 犬神松子(マツコ): 佐兵衛の長女
  • 犬神竹子(タケコ): 佐兵衛の次女
  • 犬神梅子(ウメコ): 佐兵衛の三女
  • 犬神佐清(スケキヨ): 長女松子の子
  • 犬神佐武(スケタケ): 次女竹子の子
  • 犬神小夜子(サヨコ): 次女竹子の子
  • 犬神佐智(スケトモ): 三女梅子の子
  • 青沼静馬(シズマ): 佐兵衛の愛人・青沼菊乃の子
  • 野々宮珠世(タマヨ): 血縁ではないが佐兵衛の恩人・野々宮大弐の孫

青沼静馬は戦争で行方不明となっているので、他の8人が揃わねばなりません。
同じく戦争に出ていた佐清(スケキヨ)が戻ってきたことで、遺言状の開封となります。

犬神佐兵衛の遺言状にはこう書かれていました。

一、犬神家の財産、ならびに全事業の相続権を意味する、犬神家の三種の家宝、斧、琴、菊は次の条件のもとに野々宮珠世に譲られるものとす。

一、ただし野々宮珠世はその配偶者を、犬神佐兵衛の三人の孫、佐清、佐武、佐智の中より選ばざるべからず。その選択は野々宮珠世の自由なるも、もし、珠世にして三人のうちの何人も結婚することを肯ぜず、他に配偶者を選ぶ場合は、珠世は斧、琴、菊の相続権を喪失するものとす。

一、野々宮珠世はこの遺言状が公表されたる日より数えて、三か月以内に、佐清、佐武、佐智の三人のうちより、配偶者を選ばざるべからず。もし、その際、珠世の選びし相手にして、その結婚を拒否する場合には、そのものは犬神家の相続に関するあらゆる権利を放棄せしものと認む。したがって、三人が三人とも、珠世との結婚を希望せざる場合、あるいは三人が三人とも、死亡せる場合においては、珠世は第二項の義務より解放され、何人と結婚するも自由とす。

一、もし、野々宮珠世にして、斧、琴、菊の相続権を失うか、あるいはまたこの遺言状公表以前、もしくは、この遺言状が公表されてより、三か月以内に死亡せる場合には、犬神家の全事業は、佐清によって相続され、佐武、佐智のふたりは、現在かれらの父があるポストによって、佐清の事業経営を補佐するものとす。しかして、犬神家の全財産は、犬神奉公会によって、公平に五等分され、その五分の一ずつを、佐清、佐武、佐智にあたえ、残りの五分の二を青沼菊乃の一子青沼静馬にあたえるものとす。ただし、その際分与をうけたるものは、各自の分与額の二十パーセントずつを、犬神奉公会に寄付せざるべからず。

一、犬神奉公会は、この遺言状が公表されてより、三か月以内に全力をあげて青沼静馬の行方の捜索発見せざるべからず。しかして、その期間内にその消息がつかみえざる場合か、あるいはかれの死亡が確認された場合には、かれの受くべき全額を犬神奉公会に寄付するものとす。ただし、青沼静馬が、内地において発見されざる場合においても、かれが外地のいずれかにおいて、生存せる可能性ある場合には、この遺言状の公表されたる日より数えて向こう三か年は、その額を犬神奉公会において保管し、その期間内に静馬が帰還せる際は、かれの受くべき分をかれに与え、帰還せざる場合においては、それを犬神奉公会におさむることとす。

一、野々宮珠世が斧琴菊の相続権を失うか、あるいはこの遺言状の公表以前、もしくは公表されてより三か月以内に死亡せる場合において、佐清、佐武、佐智の三人のうちに不幸ある場合はつぎのごとくなす。その一、佐清の死亡せる場合。犬神家の全事業は協同者としての佐武、佐智に譲らる。佐武、佐智は同等の権力をもち、一致協力して犬神家の事業を守り育てざるべからず。ただし、佐清の受くべき遺産の分与額は、青沼静馬にいくものとする。その二、佐武、佐智のうち一人死亡せる場合。その分与額同じく青沼静馬にいくものとする。以下、すべてそれに準じ、三人のうち何人が死亡せる場合においても、その分与額は必ず青沼静馬にいくものとなし、それらの額のすべては、静馬の生存如何により前項のごとく処理す。しかして佐清、佐武、佐智の三人とも死亡せる場合に於ては、犬神家の全事業、全財産はすべて青沼静馬の享受することとなり、斧、琴、菊の三種の家宝は、かれにおくられるものとなす。

『犬神家の一族』より

 

法律上の相続人

相続人は、簡単にいうとまず子供です。
子供がいないときは親が相続人になります。
親も居ないときには兄弟姉妹が相続人になります。
この場合、佐兵衛の親や兄弟は既に亡くなっているので、3人の娘である松子、竹子、梅子になります。
その子が孫を産んでいた場合、子が死ぬと孫に相続権が渡ります。
3人の娘の子、すなわち佐兵衛の孫にあたる佐清、佐武、佐智です。

配偶者は相続人になれませんが子供がいればその子供と共に相続人になります。
この場合、青沼菊乃と静馬親子です。

犬神松子・竹子・梅子の場合

松子、竹子、梅子は犬神佐兵衛の娘ですが、犬神佐兵衛は生涯結婚していません。
本来、相続権は結婚している子に渡るものなので、法律上は少し問題があります。
しかし、この場合は他に配偶者が居ませんし、同じ家で暮らしてきたのだから3人の娘、松子、竹子、梅子は認知されていると言ってもいいでしょう。
結果的にこの3人の娘には相続権があると考えられます。

青沼菊乃の場合

青沼菊乃は犬神佐兵衛の愛人です。
これが配偶者なら相続人となりますが、法律上、結婚していない者は配偶者とは認められません。
従って相続人にはなりません。

青沼静馬の場合

青沼静馬は犬神佐兵衛の愛人・青沼菊乃の子です。
子供は相続人になりますが、犬神松子、竹子、梅子らと同様に親は結婚しておらず、配偶者ではありません。
従って、相続権が無いとは言えませんが、松子、竹子、梅子がいる以上、縁の薄い立場になります。
しかし、認知の訴えをすれば、3人の娘と同等の立場になります。

犬神佐清・佐武・佐智の場合

犬神佐兵衛の孫にあたりますが、相続人にはなれません。
彼ら3人の孫が相続人となるのは、相続人である母親、松子、竹子、梅子が死亡している場合、代襲相続となり孫が母親の相続分を受け取る仕組みになっています。

野々宮珠世の場合

野々宮珠世は犬神佐兵衛の孫なので、亡くなった母親である野々宮祝子の相続分を代襲相続することにより相続人になる可能性はあります。
しかし、これも認知されておらず、相続人になるのは難しいでしょう。

 

遺産を巡る争いの原因

この中で相続人になれそうなのは松子、竹子、梅子の3人です。
しいてもう一人挙げるなら、青沼静馬でしょうか。

普通は彼女らに相続するよう書き記すものですが、犬神佐兵衛の遺言状にはなんと
「全相続権を示す犬神家の家宝“斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)”の三つを、野々宮珠世が佐清、佐武、佐智の佐兵衛の3人の孫息子の中から配偶者を選ぶことを条件に、珠世に与えるものとする」
というような内容でした。

これでは本来の相続人である松子、竹子、梅子たちを無視したことになり、当然怒りますよね。
まして、自分たちが追い出した青沼菊乃の子、静馬の名前が出たこともあります。

 

犬神家の一族の遺言状に効力があるのか

スケキヨ遺言状に何を書いても効力があるのかということですが、基本はその人の自由ですので有効だと言えます。
ただし、法律的に問題のある場合は無効となります。
例えば、「子供たちが争いをして生き残った者が相続する」なんていう遺言状は殺人という罪を犯すことになりますので認められません。

犬神家の遺言状の場合、死亡した時のことは書かれているものの、「争いをせよ」というような文言は見当たらないので効力が認められます。
しかし、争いごとになるのが目に見えているような遺言状を書くべきではないでしょうね。

野々宮珠世が佐清、佐武、佐智という3人の孫息子の中から結婚相手を選ぶことが条件というような遺言状は混乱と争いを招くのは必然です。
「争いを避けるために遺言状を残す」ということを目的として書き残すのが遺言状だと私は思います。

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